インプラント 料金のこんな変化

家族はそうした私たちの苦労を知りもせず、その結果だけを見て入れ歯がどっかに行ったと非難ばかりするのですから、やはり淋しい気がしました。
まあ、これも看護婦の仕事の宿命なのかもしれませんけどね。 ちなみに、どの人がどんな入れ歯を使っているかまで覚えておくのは、それだけで結構頭を使います。
また、入れ歯がなくなりやすい原因としては、入れ歯が合わないこともあげられます。 患者さんはあごがやせて、入れ歯のかみ合わせが悪くなってしまう。
私の勤める病院には歯科があるので、そんな時には歯科にかけて調整してもらうのですが、またやせて合わなくなるという人も少なくありません。 また、以前一緒に働いていたある看護婦は、「私、便とか尿は平気なんだけど、患者さんの入れ歯を洗うのだけはいまだに慣れないの。
なんか、どうしても抵抗感があるのよ」、と言っていました。 もちろん、だからといってやらないわけじゃないのですが、やっぱり苦手な業務というものもある。
好きな業務、嫌いな業務には、なぜかと聞かれても合理的な理由のない、感覚的な部分があるんですよね。 私は、入れ歯洗いは好きでも嫌いでもありません。
別にやらなきゃならないならば、なんとも思わずにやる、という程度かな。 でも、自分の入れ歯をさも汚そうに取って、「ちょっとこれ、洗ってください」とか言われると、一瞬むっとしちゃうことも。
業務として当然やるぜ、という気持ちと、いやなこととして押しつけられるのって、やっぱり別問題ですからね。 そんな時は、「なるべく自分で洗ってみましょう」と、しっかり患者さん教育をしちゃいます。
こうした症例以上に、マウスケアがすごく問題になる患者さんといえば、なんといっても経口挿管して呼吸器を長期にわたってつけている人。 つまり、口から気管に向かってチューブを挿入して、呼吸器で強制的に肺に空気を送り込んでいる状態の患者さんです。

このような人では、挿管したチューブをかまないようにバイトブロックというゴムのブロックをかませ、チューブと一緒に強力な粘着テープで固定します。 全く意識のない状態の人ならば、それであまり動くことがないわけですが、少しでも意識・反射のある人だと、舌でバイトブロックを動かして、チューブをかんでしまったりするのです。
こうなると、チューブがつぶれて肺に空気が行かなくなるし、最悪の場合、チューブをかみ切られたら、すぐに再挿管しなければなりません。 こうした異常はすべて呼吸器のアラームですぐに知ることができますが、いずれにしても、生命に直接かかわる事態です。
だからこうした事故が起こらないよう、チューブとバイトブロックの固定には、絶えず気を配っていなければなりません。 また、舌の動きが活発な人では、唾液が絶えず口から噴き出して、枕もとがぐしょぐしょになることもあります。
そんな時は、唾液があふれるたびに吸引器で口の中をきれいに吸引し、時に二人がかりで固定をし直しながら、イソジン液を口の中に流し込んでは吸引して、マウスケアを行ないます。 このように気を配らないと、口の中はどんどん汚くなる。
医療技術が発達して、さまざまなハイテク技術のおかげで延命する患者さんが増えるほど、患者さんをきれいにしておくための技術も、高度になっていくのです。 そして、このようなマウスケアの方法とか、テープの固定の仕方にも、それぞれの看護婦の工夫があります。
キャリアを問わずグッドアイデアを思いついた人がそれを他の看護婦に引き継ぎ、全体のレベルが上がっていくものなんです。 こうした技術をもってしても、どうにもならなかった症例もありました。
今でも忘れられないのは、舌を盛んに動かして、残っている歯で舌をかみ切って血まみれになった患者さん。 その人は、呼吸器の装着が長く、経口挿管ではその管理がたいへんだということで、気管切開という、喉のところに穴を開けて呼吸器をつなぐ方法をとっていました。
ですから、チューブをかみ切る心配はなかったのですが、そのかわり、舌をかまないよなりましたが……。 それを見て私は、痛みを感じないというのは怖いことだなあとしみじみ思いました。

人間痛くていいところはひとつもないと言いますが、痛みがあるからこそ、やってまずいことや、悪いところがわかるんですよね。 ただ反射だけ残った状態で痛みを感じないとなると、自分で舌をかみ切ってしまうなんてこともあるわけです。
痛そうなものを見るのは、看護婦を始めてだいぶ慣れましたが、舌に食い込んだ歯を見た時には、大げさではなく、倒れそうになったものです。 呼吸器のついている患者さんや、自分で疾の出せない患者さんでは、口の中をきれいにするだけではなく、吸引チューブで気管の疾を吸引することも行なわれます。
これは意識のある人では当然かなりつらい処置なので、少しでも短時間に、多量の疾を引けるようにみんな心がけています。 その工夫としては、背中をまずパンパンたたいて疾を上のほうに上げておき、それから疾を吸引したり、ネブライザー(薬を霧状にする装置)をかけてから吸引することなどがあるために、苦労しなければなりませんでした。
結局、最後は歯科医を呼んで抜歯したり、歯にやわらかいプロテクターをしたりして、なんとか血が出るまでかむことはなくただ、以前はとにかく自分の勤務帯で疾を詰まらせたら看護婦の恥とばかりに、必死に吸疾をしていたのですが、最近になってその考え方も少し変わりました。 というのも、かなり重症の患者さんが延命できるようになった結果、最終的な死因は、あります。
でも、そうした前準備以上に、いざ鼻や口からチューブを入れる時のタイミングが、勝負の分かれ目になるのです。 チューブをちょっと入れただけで、うまく咳を誘発できると、その拍子に気管までチューブが入り、一気に多量の疾が引けてきます。
そうするとそばによるだけでゼロゼロと胸につかえていた疾の音が見事に消え、吸引したこっちのほうまでがすっきりする気がするんですよね。 ところが逆に、なかなか気管に入らない時は、こっちまで息苦しくなってしまう。

「はい、口を開けて」と言っては自分も口を開き、「はい、ゴホンして」と言っては自分が咳をし、当の本人は咳が出ず、言葉にしてゴホソとしゃべるだけだったりすると、むきになってるこっちがおかしいのかなあという気にもなります。 抵抗力がなくなって発症した肺炎というパターンが増えてきました。
こうなると、最終的には疾が詰まって亡くなるということは、いくらでも起こりうること。 それを看護婦の恥として避けようとするあまりに、患者さんがいやがろうとなんだろうと、吸引チューブを押し込みまくるのが正しいやり方だとは思えなくなってきたのです。
ですから、全身が弱って併発した、治らない肺炎については、疾が詰まって亡くなるのも、場合によってはひとつの寿命じゃないかと思います。 乱暴な言い方かもしれませんが、そこまで開き直っていないと、もう重くて重くて、やっていられない。
そのあたりは見守る家族のほうにも同じ思いがある場合も多く、「もうここまで十分がんばりましたから、いやがることはしないでください」と、疾の吸引を拒否され、そのままみとる場合もあります。

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